共有持分だけでも売れる?相続不動産が共有になったときの選択肢
更新日 2026-08-30
兄弟で話し合った末に「とりあえず共有名義にしておこう」で終わった実家が、数年たって動かなくなる。売ろうと言い出したら一人が首を縦に振らない、そもそも連絡が取れない相続人がいる、話すたびに昔の話に戻ってしまう。共有のままでも打てる手は残っています。ただし選べる出口は、共有者の状況によってかなり変わります。相続で共有になった不動産から抜けるための道筋を、法務省と裁判所が公開している資料に沿って並べました。
なぜ共有のままだと身動きが取れなくなるのか
遺産分割が済んでいない間、その不動産は全ての相続人が法定相続分の割合で取得した共有状態になります。法務省は、この状態では相続する気がない相続人にも登記の申請義務がかかると説明しています。誰も何も決めていなくても、法律の上ではすでに全員が持分を持っている。だから全体を売るときには全員の関与が要り、一人が動かないだけで話が止まります。
もうひとつ押さえておきたいのが、持分だけを売った場合との金額の差です。法務省の改正資料は、不動産の共有持分を売却して得る代金よりも、不動産全体を売却して持分に応じて受け取る代金のほうが高額になりやすい、とはっきり書いています。自分の持分だけを手放す方法は最後の逃げ道であって、最初に狙う手ではありません。順番を間違えると、同じ不動産から受け取れる額が目に見えて減ります。
出口1 全員の同意で不動産全体を売る
金額の面ではこれがいちばん有利です。反対している共有者は、金額の見当がつかないまま身構えているだけのことも多いと思っています。だとすれば口頭で売ろうと繰り返すより、査定額と分配後の手取り、引き渡しまでの段取りを紙にして、全員に同じものを見せるほうが早く進みます。売却の流れと税金の考え方は相続した不動産の売却にまとめました。
順番の注意がひとつ。名義が亡くなった人のままだと、買い手が決まっても所有権の移転登記ができません。全員で売ると決めたら、まず相続登記で相続人の名義に直すところからです。全員が売ることで一致しているなら、共有名義であること自体が次の壁になるわけではありません。止まるのは、一人でも売却に加わらないときと、登記がまだ終わっていないときです。
出口2 自分の持分を他の共有者に買い取ってもらう
共有者の一人、または残る何人かが不動産を取り、取った人が他の共有者に代償金を払う。法務省の資料が賠償分割と呼んでいる形です。外部に物件が渡らないので、その家に住み続けている人がいる場合でも話は通りやすい。当事者どうしで折り合えばそのまま決められます。折り合えなければ、遺産分割がまだなら家庭裁判所の遺産分割調停や審判で決めることになります。遺産分割が済んでいるなら、出口4の共有物分割の中で裁判所が同じ形を選ぶこともあります。
ただし、まだ遺産分割が終わっていない段階なら、この買い取りより先に分割の話をまとめるほうが筋がいいと思っています。誰が何を取るかを決める場がまだ残っているのに、自分の取り分だけ先に現金化すると、残りの遺産の配分でも立場を失います。
出口3 自分の持分だけを第三者に売る
自分の共有持分だけを外に売るという方法もあります。法務省の改正資料は、共有持分を売却して得る代金と、不動産全体を売却して持分に応じて受け取る代金を並べて比較しており、持分だけの売却が現実の選択肢として存在することを前提に書かれています。
ただし、その比較のとおり、受け取れる代金は全体を売って分けた場合より下がりやすい。合意形成がどうやっても進まず、これ以上は関わりたくないという状況でだけ検討する出口だと考えてください。買い手が入ったあとの共有関係は、その買い手と残った兄弟の間に移ります。自分は抜けられても、家族には新しい共有者との交渉が始まる。そこまで含めて決める話です。遺産分割がまだ終わっていないなら、その前に出口4の家庭裁判所の話を読んでください。
出口4 決裂したときの行き先は、家庭裁判所か地方裁判所か
ここで多くの人が入口を間違えます。まだ遺産分割が終わっていない状態、つまり遺産共有なら、行き先は家庭裁判所です。法務省の資料も、遺産共有の解消方法は遺産分割協議による合意か、家庭裁判所の遺産分割審判・調停によると書いています。遺産共有はそもそも暫定的な状態で、遺産分割で速やかに解消されるべきものだ、というのが改正の前提にある考え方です。
一方、地方裁判所に共有物分割を求めるのは、遺産分割がすでに済んで通常の共有になっている場合の話になります。例外として、もともとの共有者の持分と遺産共有の持分が混ざっているケースでは、一定の年数が過ぎたあとに限り、遺産共有の解消まで地方裁判所の共有物分割訴訟でまとめて処理できるようになりました。ただしこれは、被告になった相続人が異議を申し出れば使えません。自分がどちらの入口なのか分からないときは、司法書士か弁護士に整理してもらってから動くほうが早い。
地方裁判所の共有物分割になった場合の分け方は3種類あり、法務省の資料はそれぞれをこう定義しています。現物分割は共有物を持分割合に応じて物理的に分ける方法。賠償分割は共有物を共有者の一人(又は複数)の所有にして、取得した者が他の共有者に代償金を支払う方法。競売分割は競売により第三者に売却し、売却代金を持分割合に応じて分ける方法です。
2023年4月に施行された民法改正で、この賠償分割ができることが条文に明記されました。あわせて検討の順序もはっきりしています。現物分割と賠償分割のいずれもできない場合か、現物分割では共有物の価格を著しく減少させるおそれがあって賠償分割もできない場合に、競売分割を行う。裁判を起こしたら競売で叩き売りになる、という理解は今の条文とはずれています。
裁判所は分割の裁判で、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命じることもできます。さらに、共有者の一部が不特定だったり所在が分からなかったりして協議そのものができない場合でも、裁判による共有物分割ができることが改正で明確にされました。話し合いの席に全員が着けないことは、裁判所を使えない理由にはなりません。
連絡が取れない共有者がいるとき
行方が分からない共有者がいる場合の手当ても、同じ改正で用意されました。ひとつは持分取得の裁判で、裁判所の決定を得て、所在の分からない共有者の持分を申立てをした共有者が取得します。もうひとつは持分譲渡の権限付与の裁判です。所在の分からない共有者以外の全員が持分の全部を譲渡することを条件に、その人の持分も含めた不動産全体を特定の第三者へ売れるようにするもので、持分は申立人を経由せず買主へ直接移ります。申立て先はどちらも、不動産の所在地を管轄する地方裁判所です。なお権限をもらったあとの売買契約は裁判とは別に必要で、しかも決められた期間内に済ませなければなりません。事情があれば裁判所に伸ばしてもらうことはできますが、裁判を取っただけで放置できる造りではありません。
流れは、申立てと証拠の提出、異議届出期間の公告と登記簿上の共有者への通知、その届出期間の経過、時価相当額の金銭の供託、そして裁判、という順に進みます。公告して待つ期間が必ず挟まります。申し立ててすぐ結論が出る手続きではありません。どれくらいかかるかは申立先の裁判所に確かめてください。持分を取得できるのは裁判が確定した時点。途中で本人から異議の届出があって所在が判明すれば、申立ては却下されます。所在等が不明であることは申立てる側が示す必要があり、登記簿だけでなく住民票などの調査をしたうえで、裁判所に認められることが求められます。
添付書類は東京地方裁判所が説明と申立書式を公開しています。不動産の登記事項証明書、不動産鑑定書や簡易鑑定書または固定資産税評価証明書、所有者・共有者の探索等に関する報告書、所在が分からないことを裏づける資料の写しなどが並びます。返却された郵便物や他の共有者から聴取した書面まで挙がっているとおり、探した経過そのものが資料になります。
ひとつ条件があります。所在の分からない共有者の、その持分が、まだ遺産分割をしていない相続財産に属する場合は、相続開始から一定の年数が経っていることが必要です。ここは登記の名義では決まりません。法定相続分どおりの相続登記を入れて相続人の共有名義になっていても、遺産分割が終わっていなければこちらに当たります。年数は条文で決まっているので、自分の相続が該当するかどうかは、上の裁判所のページにある説明資料か司法書士に確かめてください。連絡が取れない相続人がいる場合の進め方の全体像は音信不通の相続人がいる相続登記で扱っています。
共有のまま持ち続けるなら、管理のルールも変わった
すぐに手放さない選択もあります。改正で、共有物の軽微な変更には全員の同意が不要になり、持分の過半数で決められるようになりました。所在の分からない共有者がいる場合も、地方裁判所に申し立ててその決定を得たうえで、残りの共有者の持分の過半数で管理行為が、残りの共有者全員の同意で変更行為ができます。共有者の中から使う人を一人に決める、農地を宅地に造成する。こうした判断が、全員をつかまえられなくても進むようになったわけです。
どの出口を選んでも、相続登記の期限は動いている
売る形で片づけるなら、その前に相続登記で名義を相続人に直しておく必要があります。裁判所を使う出口を選んだ場合も、登記の義務と期限のほうは別に進んでいます。登記の申請は2024年4月から義務で、原則は不動産を相続で取得したと知った日から3年以内。共有のまま話が止まっていても、この時計はもう動いています。2024年4月より前に発生していた相続も対象で、その場合の期限は2027年3月31日か、相続を知った日から3年のどちらか遅いほうです。2027年3月31日までは残り206日です。そのうえで遺産分割が成立したら、成立日から3年以内に、その内容に応じた所有権移転登記を申請しなければなりません。期限の考え方は相続登記の義務化に、費用と自分でやる場合の難所は相続登記を自分でやるにまとめています。義務だけ先に片づけたいなら相続人申告登記という手もありますが、これは売却の前提にはなりません。
土地のほうを手放したい場合の相続土地国庫帰属制度は、共有地であれば共有者全員で申請する決まりです。ここでも結局は全員が要る(相続土地国庫帰属制度)。共有の解消を先に片づけるか、全員をまとめて国庫帰属に向かうか、どちらが早いかで選ぶことになります。
自分の期限がいつなのかが曖昧なら、相続登記の期限チェッカーで数問に答えて目安を出してから、どの出口を狙うか決めるほうが順番として自然です。共有の解消まで含めた進め方は無料相談で受け付けています。持分の買い取りに対応できる会社があるかどうかも、そこで一緒に整理します。