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相続人申告登記とは。デメリットと、遺産分割がまとまらない時の使い方

更新日 2026-07-30

兄弟で意見が割れている、相続人の一人と連絡が取れない、そもそも誰が実家を継ぐか決まらない。こうした事情で遺産分割がまとまらないまま、相続登記の3年の期限が近づいてくる。そのために用意されたのが相続人申告登記です。ただし、これで名義が自分に移るわけではありません。買えるのは時間だけで、売ることも貸すこともできないまま。法務省が留意点として挙げている中身と、申出の前に知っておきたい落とし穴を、一次情報の文言に沿って並べます。

なぜ「3年以内にまとまらない」が起きるのか

遺産分割は相続人全員の合意がないと成立しません。一人でも反対したり、話し合いのテーブルに着かなかったりすると前に進みません。実際に多いのは、こんな状況です。実家を売るか残すかで兄弟の意見が食い違う。相続人の一人が遠方や海外にいて連絡が取りづらい。前の代の相続を放置していて、いつの間にか相続人が十数人に膨らんでいる(数次相続のケース)。

厄介なのは、もめている事情と3年の期限が無関係に進むことです。争っている当事者に期限まで気を配る余裕はなかなかありません。分割の結論を待たずに義務だけを切り離して果たせる仕組みが必要になるのは、そのためです。

まとまらなくても義務は果たせる。相続人申告登記とは

相続人申告登記は、2024年4月に始まった新しい手続きです。登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自分がその相続人の一人であることを、法務局(登記官)に申し出ます。受理されると登記簿に申出人の氏名と住所が記録され、これだけで相続登記の申請義務を履行したことになります。過料の対象から外れる、ということです。

肝心なのは、遺産分割がまとまっている必要がまったくない点です。「誰がどの持分を取るか」は決めないまま、「自分は相続人の一人だ」とだけ申し出ればよい。もめごとの決着を待たずに、期限の問題を先に片づけられます。

通常の相続登記より、手間も費用も大幅に軽い

本来の相続登記は、被相続人の出生から死亡までの戸除籍謄本等を集めて法定相続人の範囲と法定相続分の割合を確定し、遺産分割協議書に相続人全員が実印を押す必要があります。相続人申告登記は、そこが大きく違います。

流れを図にすると、こうなります。

遺産分割がまとまらない 対立・音信不通・相続人が多数 相続人申告登記を申し出る 一人で・法定相続分の確定不要・登録免許税なし 登記の申請義務を履行 過料の対象から外れる 協議がまとまったら 成立の日から3年以内に 本来の相続登記を申請する

売れない・貸せない。法務省が挙げる2つの留意点

法務省は相続人申告登記の案内ページで、留意点を2点はっきり書いています。ひとつは、不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりする場合には別途相続登記の申請が必要になること。誰がどの持分を持つかが登記に出ないので、買い手や金融機関に対して自分の権利を示す力はありません。あくまで義務の履行と期限の確保のための応急的な仕組みで、法務省自身も「直ちに遺産分割や相続登記の申請をすることが難しい場合など」の利用を想定していると書いています。売却を予定しているなら、申告登記で止めずに本来の相続登記まで一気に進める段取りが必要です。共有名義の整理で迷ったときは共有持分の記事も参考になります。

もうひとつが、遺産分割に基づく相続登記の申請義務は、相続人申告登記では履行できないことです。申出をした後に遺産分割が成立すると、その結果に基づく本来の相続登記を成立の日から3年以内に申請する義務が改めて発生し、その義務のほうは申告登記をもう一度しても果たせません。申告登記は最終解決ではなく、時間を買う手段と考えるのが正確です。まとまった瞬間に安心して放置すると、今度はそちらの期限で過料の対象になりえます。

義務を果たしたことになるのは、申出をした人だけ

見落とされやすいのがここです。法務省のQ&Aは「相続人申告登記は、申出をした相続人についてのみ、相続登記の義務を履行したものとみなされます」としています。相続人全員が義務を果たしたことになるには、全員がそれぞれ申出をする必要があります。兄が代表して申し出たから家族全員が安心、という制度ではありません。

「自分はあの家を相続する気がない」という人も無関係ではありません。遺産分割をしていない間は、全ての相続人が法定相続分の割合でその不動産を共有した状態になるため、相続する気のない人にも登記の義務があります。遺産分割が調って所有者が自分以外に決まれば、その義務はなくなります。

相続人が3人。申出をしたのは自分だけの場合 自分(申出した) ✓ 相続登記の義務を履行したとみなされる 兄(申出していない) 義務はそのまま残る 妹(申出していない) 義務はそのまま残る 連名で申出書を作れば、3人分をまとめて申出できる (他の相続人の分を含めた代理申出も可)

手間を減らす方法は用意されています。複数の相続人が連名で申出書を作成すれば、複数人分の申出をまとめてできます。他の相続人の分も含めた代理申出も可能で、連名で出す場合は委任状もいりません。話ができる家族の間なら、一度にまとめてしまうほうが確実です。

氏名と住所は登記に付記される。戸籍も「最小限」とは限らない

申出をすると、登記官が所要の審査をしたうえで申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記に付記します。登記事項証明書は誰でも取得できる書類(窓口600円)ですから、自分の名前と住所がそこに載るということです。義務を果たした記録が公に残る仕組みである以上、避けようがない部分ですが、申出書を出す前に知っておいたほうがよい点です。

「戸籍は最小限で済む」という説明にも幅があります。申出人が亡くなった人の子や配偶者なら、死亡の事実と続柄が分かる戸籍でおおむね足ります。ところが申出人がの場合は、被相続人に子がないことが分かる戸籍、つまり被相続人の出生から死亡までの全ての戸除籍謄本等が必要です。兄弟姉妹ならさらに、被相続人が亡くなる前に父母・祖父母等が死亡していることが分かる戸籍まで求められます。実家の名義が祖父のままといった数次相続のケースでは、間に入った相続人(祖父の相続人で、その後亡くなった人)について、祖父の子であることが分かる戸籍と、その人の死亡した日が分かる戸籍が加わります。どの戸籍が必要か判断がつかないときは、その人の出生から死亡までの全ての戸籍を提出しても差し支えないと案内されています。自分がどの立場かで、集める量はかなり変わるわけです。書類の全体像は相続登記の必要書類チェックリストで確認できます。

提出書類を軽くする手続きの工夫

申告登記に出すのは、申出書、自分が相続人だと分かる戸籍の証明書、住所を証する情報、それに代理人が手続する場合の委任状です。条件が合えば、この中身は削れます。

逆に、後から手間が増える場面もあります。申出のあとで自分の住所や氏名が変わったときは、その旨を申し出れば登記記録に反映できますが、この変更の手続だけはWebブラウザ上ではできません。引っ越しの予定があるなら、申出の順番を考えておくと二度手間が減ります。

期限に遅れると何が起きるか

正当な理由なく期限内に登記も申告もしないと、10万円以下の過料(行政上の金銭的な制裁。刑事罰の罰金とは別のもの)の対象になります。ただ、遅れたら直ちに科されるわけではありません。登記官が義務違反を把握すると、まず登記をするよう催告書が送られ、その期限内にも申請がなければ裁判所に通知され、そこで過料の判断がなされます。2026年の時点で、過料が実際に科された例の公表は確認されていません。とはいえ催告が来てから慌てるより、申告登記で先に義務を果たしておくほうが安心です。すでに期限を過ぎてしまった人は、相続登記の期限が過ぎたらどうなるで今からの動き方を確認してください。

気をつけたいのは、「もめているから登記できないのは仕方ない」という理屈が、そのまま過料を免れる正当な理由になるとは限らない点です。法務省が正当な理由の例に挙げているのは、相続人が極めて多数にのぼるケース、遺言の有効性が争われているケース、重い病気やDV被害、経済的な困窮など。単に話し合いが長引いているというだけでは、ここに当てはまると言い切れません。だからこそ、一人で申し出られる申告登記で先に義務を果たしておく意味があります。

相続したくない・相続人が音信不通のとき

「マイナスの財産のほうが多そうで、そもそも相続したくない」という場合は、相続登記や申告登記ではなく相続放棄の検討になります。放棄は、自分のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きしなければならず、遺産に手を付けたり口頭で「いらない」と伝えたりするだけでは法的な放棄になりません。放棄したつもりで固定資産税の通知が来たという相談も少なくありません。期限が短いので、迷ったら早めに司法書士や弁護士へ相談してください。

相続人の一人が音信不通で協議自体を始められないケースは、まず相続人申告登記で自分の義務を果たしたうえで、不在の相続人を含めた解決手続きを別途進めることになります。この部分は個別性が高く、自己判断で進めると手戻りが出やすいので、司法書士か法務局の手続案内で自分のケースを確認するのが確実です。不在者財産管理人の選任など家庭裁判所の手続きに進む順番は、音信不通の相続人がいる場合の記事にまとめました。

まず自分の期限を確かめる

過去に開いた相続で登記が済んでいない人は、2027年3月31日が期限になることが多く、残りは233日です。判断の分かれ目はここです。売る・貸す・担保に入れる予定がある人は、申告登記では一歩も前に進めないので本登記まで進む段取りを組む。予定はなく話し合いだけが止まっている人は、申告登記で期限を止めておく。デメリットを並べたうえでも、期限が迫っている人にとっては使う価値のある制度です。自分がどちらなのか迷ったら、まず相続登記の期限チェッカーで自分の期限を確かめ、そのうえで申告登記か本登記かを決めるのが早道です。

参考(一次情報)

あなたの期限は? 亡くなった時期を選ぶだけで、申請期限と残り日数を確認できます。

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