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音信不通の相続人がいる。相続登記は自分の分だけ先に進められる

更新日 2026-08-03

親の家の名義を変えようとして、相続人の一人と連絡がつかないことに気づく。携帯は不通、手紙は宛先不明で戻ってくる。遺産分割は全員がそろわないと成立しないので、話し合いはここで止まります。ところが相続登記の期限のほうは、その事情とは関係なく進んでいきます。先に動かせるのは、実は話し合いではなく登記の義務のほうです。法務省と裁判所が公開している手続きの中身から、動かせる順番を組み立てます。

止まるのは遺産分割。登記の義務は止まらない

遺産分割は相続人全員の合意で成立します。一人でも欠ければ協議書はつくれません。一方で相続登記の申請義務のほうは、2024年4月1日に始まって以来、不動産を相続で取得したと知った日から3年以内と決まっています。施行日より前に開いた相続なら、2027年3月31日か知った日から3年のどちらか遅い方が期限。前者に当たる人の残り時間は233日です。正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料(行政上の金銭的な制裁で、刑事罰の罰金とは別のもの)の対象になります。

期待したくなるのが、連絡が取れないのだから正当な理由になるだろう、という理屈です。法務省が正当な理由の例として挙げているのは、相続人が極めて多数にのぼる場合、遺言の有効性等が争われている場合、重い病気、DV被害で避難中、経済的な困窮。「相続人の一人と連絡が取れない」がそのまま挙がっているわけではありません。当てはまると自分で決めて放置するのは、賭けに近くなります。

もうひとつ知っておきたいのが、遺産分割をしていない間の権利の状態です。法務省のQ&Aは、分割前は全ての相続人が法定相続分の割合でその不動産を取得(共有)した状態になると説明しています。あの家は兄が継ぐはずだから自分は関係ない、とはならず、登記の義務は自分にもあるということです。

先に切り離せるのは、自分の登記義務

2024年4月に始まった相続人申告登記は、登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自分がその相続人の一人であることを法務局に申し出る手続きです。受理されれば、それだけで相続登記の申請義務を履行したことになります。遺産分割がまとまっている必要はありません。誰がどの持分を取るかを決めないまま、自分は相続人の一人だとだけ申し出ればよい。

連絡が取れない相手がいる状況で効いてくるのは、この手続きの軽さです。

ただし、義務を履行したとみなされるのは申出をした相続人だけです。法務省のQ&Aは、相続人全員が義務を履行したとみなされるには全員がそれぞれ申出をする必要がある、とはっきり書いています。音信不通の相手の義務は、こちらが何をしても残ったまま。逆に言えば、相手の事情から自分の過料のリスクだけは切り離せます。連絡の取れる家族が他にもいるなら、連名で申出書を作れば複数人分をまとめて申し出られます。制度の限界も含めた中身は相続人申告登記の記事にまとめました。

相続人の一人と連絡が取れない 遺産分割の協議が始められない まず 相続人申告登記を申し出る 一人で・同意も印鑑も不要・登録免許税なし 自分の登記義務を履行したことになる 並行して 家庭裁判所へ申立て 不在者財産管理人の選任(申立ては利害関係人) 権限外行為許可を得て遺産分割ができる 遺産分割が成立したら 成立の日から3年以内に 本来の相続登記を申請する

連絡がつかないのか、どこにいるか分からないのか

ここから先は、相手の状態で道が分かれます。裁判所が不在者と呼ぶのは、「従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者」です。住所が分かっていて手紙も届くのに返事がないだけ、という相手は、この定義とは状態が違います。返事をしない相手にどう向き合うかは事情によって取れる手が変わるので、弁護士等の専門家に事情を聞いてもらう場面です。住所そのものが分からず、そこを去って戻る見込みもないとなると、次の手続きが視野に入ります。

不在者に財産管理人がいないとき、家庭裁判所は申立てにより不在者財産管理人を選任できます。申し立てられるのは利害関係人と検察官で、裁判所は利害関係人の例として不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者を挙げています。自分がこの利害関係人にあたるかどうかは、申立先の家庭裁判所か司法書士・弁護士に確かめてください。申立先は不在者の従来の住所地または居所地の家庭裁判所になります。

この管理人が選任されると何が変わるのか。裁判所の説明では、管理人は不在者の財産を管理・保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で、不在者に代わって遺産分割や不動産の売却等を行うことができます。全員そろわないと動かなかった協議が、ここで動きだします。申立てに添える標準的な書類として案内されているのは、不在者の戸籍謄本と戸籍附票、管理人候補者の住民票または戸籍附票、不在の事実を証する資料、不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書や預貯金の残高が分かる書類など)、そして利害関係を証する資料です。申立て前にどうしても入手できない戸籍等は、申立て後に追加で提出しても差し支えないとされています。

費用は収入印紙と連絡用の郵便切手のほか、不在者の財産の内容によっては予納金を求められることがあります。管理人への報酬を含む管理費用に不足が出そうな場合に、申立人が相当額を納めるという趣旨です。郵便料は裁判所ごとに、予納金は事案ごとに変わるので、裁判所の該当ページと申立先の家庭裁判所で確認してください。

生死が分からない状態が一定の期間続いたときには、失踪宣告という別の道もあります。裁判所の言葉では、生死不明の者に対して法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度で、これも利害関係人が申し立てます。必要な期間は、行方が分からないだけの場合(普通失踪)と、震災や船舶の沈没などの危難に遭った場合(危難失踪)とで異なるため、裁判所の該当ページと専門家で確認してください。管理人の選任と失踪宣告のどちらが自分のケースに合うのか、そもそも家庭裁判所まで進む必要があるのかは、事情によって変わります。法務局の登記手続案内では、遺産分割の方法や内容、進め方の相談には応じられず、弁護士等の専門家に相談するよう案内されています。窓口の選び方の目安は自分でやるか司法書士に頼むかの記事で整理しました。

戸籍でつまずくのは、たいてい兄弟姉妹のとき

相手を探す前段として、相続人が誰なのかを戸籍で確定する作業があります。2024年3月に始まった広域交付で、直系の戸籍は最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求できるようになりました。ただし兄弟姉妹の分は対象外で、コンピュータ化されていない一部の戸籍も広域交付では取れません。連絡が取れない相手が自分の兄弟姉妹だと、この便利になったはずの制度から外れます。

申告登記で必要になる戸籍も、申出人の立場で変わります。亡くなった人の子や配偶者なら死亡と続柄が分かる戸籍でおおむね足りますが、親であれば被相続人に子がないことが分かる戸籍、つまり出生から死亡までの全ての戸除籍謄本等が必要です。兄弟姉妹ならさらに、被相続人の死亡前に父母・祖父母等が亡くなっていることが分かる戸籍まで加わります。集める量が増えるほど、期限までの時間は削られていきます。

戸籍を一度集めきったなら、法務局の法定相続情報証明制度を使う手があります。一覧図の写しを提出するか、法定相続情報番号を申出書に記載すれば、申告登記で戸籍の証明書の添付に代えられます。この制度の手数料は無料です。何が必要かの全体像は相続登記の必要書類チェックリストにケース別でまとめてあります。

売る予定があるなら、申告登記では足りない

申告登記で止められるのは義務だけで、名義は動きません。法務省も、相続人申告登記は不動産についての権利関係を公示するものではないため、売却したり抵当権を設定したりする場合には別途相続登記の申請が必要になる、と留意点に挙げています。空き家のまま置いておけないから売りたい、という事情が先にあるなら、申告登記で一息ついて終わりにせず、管理人の選任まで含めた段取りを最初から組むことになります。

先送りが効かない理由がもうひとつあります。放置している間に相続人の誰かが亡くなると、その人の相続人が新たに加わり、話し合うべき相手が増えます。祖父の名義のまま何十年も置かれた家で相続人が十数人に膨らむのは、この積み重ねです(数次相続のケース)。連絡の取れない一人を探すのと、増えた全員を探すのとでは、手間がまったく違います。

そして遺産分割が成立したら、そこからが本番です。成立の日から3年以内に、その結果に基づく本来の相続登記を申請する義務が改めて発生します。この義務は申告登記をもう一度しても果たせません。まとまった安心感で止まってしまうと、今度はそちらの期限で過料の対象になりえます。

今日、動かせるところから

順番はこうなります。まず自分の期限を確かめる。過去に開いた相続なら2027年3月31日が期限になることが多く、すでに過ぎていそうな人は期限が過ぎたらどうなるかの記事で催告からの流れを見ておいてください。次に、連絡が取れない相手の返事を待たずに相続人申告登記で自分の義務を止める。そのうえで、家庭裁判所の手続きに進むかどうかを司法書士や弁護士に相談する。相手を探すことと、自分の期限を守ることは、同時に進められます。

自分の期限がいつなのか、まだはっきりしない人は相続登記の期限チェッカーで数問に答えるところから始めてください。相続人の顔ぶれや連絡の取れない人の状況まで含めて誰かに聞いてほしい段階なら、無料相談で事情を聞かせてください。

参考(一次情報)

あなたの期限は? 亡くなった時期を選ぶだけで、申請期限と残り日数を確認できます。

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