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山林を相続したくない。放棄・国庫帰属・市町村の順で考える

更新日 2026-08-25

親が遺した山を、自分は継ぎたくない。売れる見込みはなく、どこからどこまでが自分の土地かも分からず、それでも税金と管理の責任だけは回ってくる。そう感じている人が最初に知っておきたいのは、山だけを切り離して手放す方法が用意されていない、という一点です。相続放棄は相続そのものを丸ごと降りる手続きで、山を選んで外すことはできません。国に引き取ってもらう制度のほうにも、森林だけに向けられた要件と、面積で変わるお金の決まりがあります。しかも動く順番によっては、余計な一手間が挟まります。ここでは、選べる手と、それぞれが実際どれくらい通るのかを、裁判所と法務省の一次情報に沿って並べます。

山だけを選んで放棄することはできない

裁判所の説明では、相続が始まったとき相続人が選べる道は三つあります。亡くなった方の土地の所有権などの権利も借金などの義務もすべて受け継ぐ単純承認。権利も義務も一切受け継がない相続放棄。そして、債務がどれだけあるか分からず財産が残る可能性もある場合に、相続によって得た財産の限度で債務の負担を受け継ぐ限定承認です。

ここで効いてくるのが、相続放棄の「一切受け継がない」という言い回しです。放棄は相続財産の全部に及びます。山だけ放棄して預貯金と実家は受け取る、という取り方はできません。実家に住み続けたい、親の預金で葬儀費用をまかないたい。そういう事情があるなら、放棄という選択肢は事実上使えないことになります。

相続放棄も限定承認も、家庭裁判所への申述が必要です。このうち相続放棄について裁判所が案内しているのは、申述先が亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所であること、そして期間が自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内と民法で定められていることです。この3ヶ月は、実務上かなり短い。山の値打ちや管理費を調べているうちに過ぎてしまうことも珍しくありません。

そして一番多い取り違えが、家庭裁判所を通さずに「自分は放棄した」と思い込んでいる状態です。遺産分割協議で何も受け取らないと決めた、兄に口頭で伝えた。どちらも法律上の相続放棄にはあたりません。この取り違えが何を招くかは相続放棄したのに固定資産税の通知が来た記事にまとめています。放棄が使えるのか、限定承認という手が向くのかの判断は事情によって変わるので、家庭裁判所の手続案内か弁護士に確認してください。

全員で放棄しても、山が自動で国のものになるわけではない

「相続人全員が放棄すれば、山は国が引き取ってくれる」。そう理解している人がいますが、実際の流れはもう一段あります。裁判所の説明によれば、相続人の存在や不存在が明らかでないとき、ここには相続人全員が相続放棄をして結果として相続する者がいなくなった場合も含まれますが、家庭裁判所は申立てによって相続財産の清算人を選任します。清算人が亡くなった方の債権者などに債務を支払って清算し、清算後に残った財産を国庫に帰属させる、という順序です。

大事なのは「申立てによって」の部分でしょう。手続きは自動では始まりません。申立てができるのは、亡くなった方の債権者や特定遺贈を受けた者、特別縁故者といった利害関係人、あるいは検察官です。誰も申し立てなければ、登記簿の名義は亡くなった人のまま、山はそこに残り続けます。放棄した本人にとっては相続人ではなくなっているので責任の所在は変わりますが、地域から見れば持ち主が動かない土地が一つ増えた状態になります。

放棄は、義務からきれいに離脱できる強い手です。ただし全部を降りる代償を払い、期間も短い。使える人は限られます。だからこそ、次に見るべきは「相続する側に回った場合に何が起きるか」になります。

相続する側に回ったら、90日の届出が先に来る

山を相続すると、登記より先に来る手続きがあります。地域森林計画の対象になっている森林を取得したときは、森林法に基づき取得から90日以内に市町村長へ届け出なければなりません。こちらにも10万円以下の過料(行政上の金銭的な制裁。前科がつく刑事罰の罰金とは別のもの)の定めがあります。農地の届出がおおむね10ヶ月なのに対して、森林は90日。実家に田畑と山の両方が付いてきたなら、先に動くべきは山のほうです。届出の実務と農地との違いは農地の相続の届出の記事で整理しています。

対象の森林かどうかは市町村に聞けば分かります。担当課の名前は自治体ごとに違うので、代表番号にかけて森林の届出の担当につないでもらうのが早道です。

登記の義務は、その裏側で別に走っています。2024年4月から、不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に相続登記を申請する義務があり、正当な理由なく怠ればこちらも10万円以下の過料の対象です。山林も宅地とまったく同じ扱いで対象になります。さらに施行日より前に起きた相続には2027年3月31日という別の期限があり、残り206日。祖父名義のまま止まっている山を抱えている人ほど、この日付が効いてきます。自分の期限がいつになるかは相続登記の期限チェッカーで数分で確かめられます。

ややこしいのは、手放す方向で動いている最中も、この義務が止まらないことです。国に引き取ってもらう制度は相続登記が済んでいなくても申請できますが、法務省は、申請を取り下げたり却下や不承認になった場合は引き続きその土地の所有者なので相続登記を申請する必要がある、とはっきり書いています。手放せる見込みが立つまで登記を待つ、という構えは、外れたときに期限だけが残ります。

国に引き取ってもらう道には、森林だけの関門がある

2023年4月に始まった相続土地国庫帰属制度は、相続で取得した土地を審査のうえ国に引き取ってもらう仕組みです。森林も申請の対象に入っています。ただし政令には森林を名指しした不承認の要件があり、納める負担金の決まりでも森林は別扱いの区分に入っています。順に見ていきます。

関門1 申請の入口で落ちる要件 境界が明らかでない土地、建物がある土地は そもそも申請できない 関門2 審査で落ちる要件 適切な造林・間伐・保育がされておらず 国の整備が必要な森林は不承認 関門3 払うお金 審査手数料1筆14,000円は結果が出ても戻らず 負担金は森林の場合、面積に応じた算定になる 審査で不承認になった96件のうち 37件で「国の整備が必要な森林」が理由に挙がった 法務省の統計(2026年7月末時点の速報値)をもとに作成。 1件に複数の理由が認められる場合がある
山林を国に引き取ってもらうまでに越える関門

法務省が公表している統計は速報値で、随時更新されます。2026年7月末時点では、申請の総数5,863件のうち山林が893件。帰属が認められた総数3,008件のうち森林は199件でした。ただし申請は地目別、帰属は種目別と集計の区分が違うため、この二つを割り算して通過率と呼ぶことはできません。森林の事情がはっきり出るのは、むしろ不承認の理由の内訳のほうです。不承認は96件で、理由として最も多く挙がったのが地上の有体物の46件、その次が「国による追加の整備が必要な森林」の37件でした。1件に複数の理由が認められる場合があると法務省は注記していますが、それでも不承認96件のうち37件、およそ4割でこの理由が挙がっている計算になります。

入口の要件も山林には重く効きます。境界が明らかでない土地は申請の段階で却下されます。ただし法務省は、測量や境界確認書の提出まで求めるものではないとも書いています。求められているのは、申請者が認識している隣接地との境界が示されていることと、その境界について隣地の所有者との間に争いがないこと。既存の境界標やブロック塀、道路などで境界点が分かるなら新しい目印は要らず、無い場合は紅白ポールやプレートなどを立てます。この目印は一時的な設置では足りず、審査のときと国庫に帰属するときの両方で判別できる必要があります。山の中でこれを維持するのは、それ自体が仕事になります。

お金の面も先に見ておいてください。審査手数料は1筆あたり14,000円で、申請を取り下げた場合も、却下や不承認になった場合も返還されません。承認されたときに納める負担金は、法務省の説明では20万円が基本です。ただし森林はその例外にあたり、市街化区域等の宅地・農地と並んで、面積に応じて20万円以上になると明記されています。負担金のページでも「面積に応じて負担金が変動する土地(森林など)」と書かれているとおりで、山の広さによっては基本の額では収まりません。いくらになるかは法務省の負担金のページにある区分と算定式で確かめてください。なお隣り合う2筆以上が同じ土地の区分なら、申し出ることで一筆分として合算した面積で算定してもらう道もあります。標準処理期間は8か月とされ、事案によってはそれを超えます。申請先は土地がある都道府県の法務局・地方法務局の本局にある不動産登記部門に限られ、支局や出張所では受け付けてもらえません。提出は窓口か郵送のみで、インターネットでの申請はできない仕組みです。

相談の窓口は申請先ほど厳しくありません。全国の法務局・地方法務局で制度の利用に関する相談を受け付けていて、方法は本局の窓口での対面、電話、ウェブの三つ。事前予約制で、一人につき1日1回30分までという枠です。相談票とチェックシートの記入が前提になります。制度全体の要件と費用は相続土地国庫帰属制度の記事にまとめました。

手放すのではなく、手入れを市町村に委ねる道もある

法務省は制度のQ&Aのなかで、国庫帰属以外の選択肢も自分から挙げています。相続放棄、地方公共団体などへの寄附、民間での売買や贈与、農地なら農地中間管理機構の活用、そして森林なら森林経営管理制度の利用です。この最後のひとつは、山を持て余している人にとって現実的な受け皿になり得ます。

林野庁の説明では、森林経営管理制度は手入れの行き届いていない森林について、市町村が森林所有者から経営管理の委託、つまり経営管理権の設定を受ける仕組みです。林業経営に適した森林は地域の林業経営体に再委託され、林業経営に適さない森林は市町村が公的に管理します。2025年3月末までに全国1,160市町村でこの制度の取組が行われていて、所有者側の入口は市町村が行う意向調査です。

誤解しないでほしいのは、これが所有権を移す制度ではないという点。委託されるのは経営管理であって、土地の名義は自分のまま残ります。軽くなるのは手入れの負担であって、所有そのものではありません。それでも、遠方に住んでいて年に一度も山を見に行けない人にとっては、放置し続けるよりはるかに現実的な着地でしょう。

ここで順番の話に戻ります。法務省のQ&Aは、森林経営管理法の経営管理権が設定されたままの土地について、国庫帰属の承認申請はできないとしています。市町村が使用・収益できる権利にあたるから、というのが理由です。ただし道が永久に閉じるわけではなく、同じQ&Aは、承認申請を希望する場合は事前に経営管理権を解除しておく必要がある、と続けています。つまり順番を戻せないのではなく、戻すのに一手間かかる。最終的に所有からも離れたいのか、手入れの負担だけ減らせればいいのか。この見極めを先にしておくほど、遠回りが減ります。迷うところなので、市町村の林務担当と、登記や制度の要件については司法書士や法務局に、それぞれ聞いてから決めてください。

今日のうちにできること

手を動かす順番は、そう複雑ではありません。まず固定資産税の課税明細書を出して、地目に山林が混ざっていないか、何筆あるかを数えます。名義が誰になっているかもここで確かめられます。次に山の所在地の市町村に電話をして、地域森林計画の対象森林にあたるか、90日の届出をどう出すかを聞きます。もし相続からすでに時間が経っていても、いつの相続かを正直に伝えて指示を仰いでください。窓口が消えるわけではありません。

並行して、登記の期限を期限チェッカーで確かめます。すでに過ぎていそうなら、応急処置の順番を期限が過ぎたときの記事にまとめています。相続放棄を考える余地があるなら、3ヶ月という期間の短さを踏まえて、その日のうちに家庭裁判所の手続案内か弁護士に問い合わせるのが安全です。売れる可能性がまだあるのか、それとも国庫帰属や市町村への委託を検討する段階なのか、自分では判断がつかないときは、無料相談で山の所在地と筆数、境界の分かり具合を伝えて、相談できる先の有無からご案内します。

参考(一次情報)

あなたの期限は? 亡くなった時期を選ぶだけで、申請期限と残り日数を確認できます。

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