空き家の3,000万円控除。相続した実家を売るとき税金がほぼ消える特例
更新日 2026-08-09
誰も住まなくなった実家を売ろうとして、売れたら税金でごっそり持っていかれるのではと手が止まる。相続した家の売却で出た利益には所得税(譲渡所得)がかかりますが、亡くなった人が住んでいた古い家には、その利益から最高3,000万円を差し引ける特例が用意されています。正式には被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といいます。使えれば手取りが大きく変わる代わりに、家の条件と売り方の両方が細かく決まっていて、売り出したあとでは取り返しがつかない選択も混ざります。売却の段取りを組む前に、どこで落ちるのかを先に知っておく話です。
この特例が消してくれるもの
差し引けるのは売却の利益であって、売った金額そのものではありません。売却代金から、その家を買ったときの費用や売るためにかかった費用を引いたものが利益で、そこから最高3,000万円を控除します。利益が控除の枠に収まれば、その分の所得税はかからない計算になります。何十年も前に親が建てた家だと購入時の資料が残っていないことが多く、その場合の利益は膨らみがちなので、枠の大きさがそのまま効いてきます。
この特例には制度自体の期限があります。適用期限は2027年12月31日まで。ここまでに売った分が対象で、それ以降どうなるかは今の時点では決まっていません。実家をどうするか決めかねているなら、期限が先にあるという前提で予定を逆算したほうがいい。
まず家の条件で振り分けられる
使えるかどうかは、売り方の工夫より先に、家そのものの条件で大半が決まります。国税庁が挙げる被相続人居住用家屋の条件は、昭和56年5月31日以前に建築されたこと、区分所有建物の登記がされている建物でないこと、そして相続が始まる直前にその家に被相続人以外に住んでいた人がいなかったこと。ここに、相続してから売るまで人に貸したり誰かが住んだりしていないという条件が重なります。
2番目の条件は言い方が独特で、分譲マンションだから駄目という書き方を国税庁はしていません。区分所有建物の登記がされているかどうかで判断します。マンションの相続そのものの手続きは分譲マンションの相続登記の記事にまとめました。3番目が見るのは相続が始まる直前の時点だけです。亡くなる直前に親と誰かが同居していた家は外れます。その時点で子どもが同居していた実家は、この特例では対象になりません。逆に、以前は同居していても親が亡くなる前に転居していたなら、直前の時点で本人ひとりだったかどうかで判断されます。
老人ホームに入っていた場合
亡くなる直前は施設にいた、という家は少なくありません。この場合も救われる道があります。要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなどの特定事由で、相続開始の直前には住んでいなかったとしても、一定の要件を満たせば、住まなくなる直前まで住んでいた家屋が対象として扱われます。国税庁はこれを従前居住用家屋と呼んでいます。
ただしこちらは条件がさらに枝分かれします。施設に入ってから相続が始まるまでの間、その家が物置などとして本人のために使われ続けていたか、その間に人へ貸したり他人が住んだりしていないか、といった確認が加わります。当てはまりそうなら、国税庁の被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋を先に読んでおくと、税務署での話が早く進みます。
売り方が3つに分かれる
家の条件を通過したら、次は売り方です。国税庁は3つの型を示しています。ひとつめは、家屋を残したまま売る型。この場合、売る時点で家屋が一定の耐震基準を満たしている必要があります。旧耐震の家なので、多くは耐震改修をしてから引き渡すことになります。
ふたつめは、家屋の全部を取り壊してから敷地を売る型。更地にして売るやり方で、取り壊してから引き渡すまでの間、その土地を建物や構築物の敷地として使っていないことが条件に入ります。駐車場として貸すといった中継ぎを挟むと、そこで崩れます。
みっつめは、売った後に耐震改修または家屋の取壊しが行われる型です。買主が引き取ってから工事をする段取りでも、一定の期限内に耐震基準を満たすか、家屋の全部の取壊しを終えれば対象になります。この期限とその数え方は国税庁のNo.3306に定めがあるので、契約書の引き渡し日を決める前に、そこと税務署か税理士に当ててください。
そのまま売るか、解体してから売るか、買主に任せるか。この選択で手取りが変わるうえ、売却活動を始めてからでは戻れません。売るまでの全体の段取りは相続した不動産を売る流れの記事で先に組み立てておくと、税の判断を差し込む場所が見えてきます。
見落としやすいところ
売却代金1億円以下という条件があります。これが単純ではなく、その家と一体で使っていた土地を分けて売った分や、他の相続人が売った分も合わせて判定されます。兄と妹で敷地を分けてそれぞれ売る、といった進め方だと、片方の目線では1億円に届かなくても合算で超えることがあり、後から申告をやり直す事態になります。分けて売る話が出た段階で、合計額を先に置いてください。
もうひとつ、相続税を納めた人が使える取得費加算の特例とは、同じ資産について重ねて使えません。国税庁の条件には、売った家屋や敷地等について相続財産を譲渡した場合の取得費の特例など他の特例の適用を受けていないこと、と書かれています。取得費加算のほうは相続開始から3年10ヶ月以内という枠があり、どちらを選ぶかで結論が変わるのは、納めた相続税の額と売却で出る利益の大きさ次第です。両方の見積もりを並べないと選べないので、ここは税理士の計算に任せる場面になります。
売る相手にも制限があります。親子や夫婦など特別の関係がある人への売却は対象外です。生計を一にする親族、売った後にその家で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のある法人も含まれます。身内に買い取ってもらう形で話を進めていると、ここで落ちます。
黙っていて適用される制度ではない
この特例は確定申告をして初めて適用されます。申告先は所轄の税務署で、書類を添えて出す必要があります。中心になるのは、譲渡所得の内訳書、売った資産の登記事項証明書等、そして売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受ける被相続人居住用家屋等確認書です。家屋を残して売った場合は耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写しが、売却代金の確認には売買契約書の写しが加わります。
手間取りやすいのが被相続人居住用家屋等確認書です。税務署ではなく市区町村の窓口で出してもらう書類で、亡くなる直前に本人以外が住んでいなかったこと、相続してから売るまで貸したり住んだりしていないことなどを、自治体が確認して発行します。申請にどんな書類が要るのか、交付までにどれくらいかかるのかは、税務署ではなく市区町村の窓口で扱う手続きなので、売った資産の所在地の市区町村に直接聞くのが確実です。売却が決まってから慌てるより、売り出しと並行して問い合わせておくほうが安全です。
なお登記事項証明書は、譲渡所得の特例の適用を受ける場合の不動産に係る不動産番号等の明細書に不動産番号を書くなどの方法で、添付を省略できます。窓口で1通600円かかる書類なので、枚数が多いときは効いてきます。細かい要件と書類の一覧は国税庁の被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例が一次情報です。
その前に、名義は誰になっているか
ここまでの話は、売れる状態になっていることが前提です。登記簿の名義が亡くなった親のままだと、買主へ所有権を移す登記ができず、売買の話そのものが進みません。しかも相続登記は2024年4月1日から義務になり、不動産を相続で取得したと知った日から3年以内の申請が求められています。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の定めもあります。制度の全体像は相続登記の義務化の記事に、自分で申請する場合の費用は登記費用の記事にまとめました。
税の特例に気を取られて登記を後回しにすると、売却の予定だけが先に動いて足元で詰まります。特例の期限も登記の期限も待ってくれないので、動かす順番としては名義が先です。
今日できるところまで
まず建築年を確かめてください。登記事項証明書に建築の時期が出ています。確定申告でも、昭和56年5月31日以前の建築であることは登記事項証明書等で明らかにする決まりなので、どのみち必要になる1通です。昭和56年5月31日より後に建った家なら、この特例は使えません。そこで判断がひとつ減ります。次に、相続してから今日まで、その家を人に貸していないか、誰かが住んでいないかを思い出す。短期間でも貸していたなら、そこで対象から外れます。
条件を通りそうなら、売り方を決める前に税務署か税理士に当ててください。取り壊すか残すかで結論が変わり、契約日の置き方でも変わります。自分の相続登記の期限がいつなのか、そもそも義務の対象なのかがはっきりしない人は、相続登記チェッカーで今の状況を確かめられます。売れそうにない土地が混ざっている場合の出口は相続土地国庫帰属制度の記事に、何から手をつければいいか分からない段階なら無料相談で状況を聞かせてください。