相続した不動産を売る流れ。登記から売却までの順番と税金の基本
更新日 2026-08-02
親の家は住む人もいないので売って現金にしたい。相続の相談でいちばん多い出口がこれです。ところが不動産会社に問い合わせる前に、たいていの人がひとつ手前で止まります。登記簿の名義が亡くなった親のままだと、その家は買主に名義を移せません。売却の話が動きだすのは相続登記のめどが立ってからで、動き出しが遅れるほど、税の特例を検討できる残り時間も短くなります。ここでは名義変更から引き渡しまでの順番と、途中で効いてくる費用と税の押さえどころを、法務局と国税庁が公表している範囲で整理します。
名義が親のままだと、なぜ売れないのか
不動産を売るというのは、買主へ所有権の移転登記をするところまで含みます。法務省は、相続した不動産を売却したり抵当権を設定したりする場合には別途相続登記の申請が必要だ、と明記しています。名義が亡くなった人のままでは買主へ移転登記ができないので、相続人が全員そろって「売りたい」と言っても、間に相続登記が一段挟まります。実際の進め方は取引ごとに違うので、不動産会社や司法書士に確認してください。
その相続登記は2024年4月1日から義務になりました。不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に申請する決まりで、起点は亡くなった日ではなく知った日です。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(行政上の金銭的な制裁で、刑事罰の罰金とは別のもの)の対象になります。売るつもりの人にとっては、この登記は義務として渋々やるものというより、売却準備の一段目です。制度の全体像は相続登記の義務化の記事にまとめました。
親が何年も前に亡くなっていて、実家だけが名義そのままという場合も対象から外れません。施行日より前に起きた相続は、2027年3月31日か知った日から3年のどちらか遅いほうが期限になります。この日まで残り233日です。過去の相続で期限がこの日に集中する事情は過去の相続の記事で扱っています。
相続人申告登記では、義務は果たせても売れない
遺産分割の話がまとまらないときの手当として、相続人申告登記という制度があります。自分がその相続人の一人だと法務局に申し出るだけで登記の義務を果たしたことになり、相続人が1人でも申出でき、登録免許税もかかりません。期限が迫っているのに話し合いが終わらない人にとっては現実的な逃げ道です。ただし義務を果たしたとみなされるのは申し出た本人の分だけで、相続人全員の義務を消すには全員がそれぞれ申し出る必要があります(連名での申出もできます)。
ただし売却の場面では使えません。法務省自身が、この制度は不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり抵当権を設定したりする場合には別途相続登記の申請が必要だ、と明記しています。申出をしても、売るには結局そのあとで本来の相続登記をすることになります。遺産分割が成立したら、その成立日から3年以内に登記する義務も残ります。使いどころと限界は相続人申告登記の記事で整理しました。
売る予定がはっきりしているなら、申告登記で時間を稼ぐより、遺産分割をまとめて本来の登記まで進めたほうが結果的に早い。ここは分岐のはっきりしたところです。
売るまでの順番を、先に決めておく
相続した不動産の売却は、通常の売却の前に相続側の作業が二段ぶら下がる形になります。全体の順番はこうです。
時間がかかるのは1と2です。相続人が誰なのかを戸籍で確定し、遺産分割協議書に相続人全員の署名押印をもらう。この段取りが済めば、登記そのものは書類の型が決まっています。必要な書類はケースによって変わるので、必要書類のチェックリストで自分がどの型かを先に見分けておくと手戻りが減ります。自分で申請するか司法書士に任せるかの判断材料は自分でやる場合の記事にまとめました。
3を飛ばさないでください。相続した不動産では、何十年も前の抵当権が抹消されないまま残っていたり、隣地との境界がはっきりしていなかったりすることがあります。査定を頼んでから発覚すると、売却の日程が丸ごとずれます。
登記にかかる費用と、土地なら効く免税
相続登記の費用の中心は登録免許税です。相続による所有権の移転の登記は固定資産税評価額の0.4%で、評価額2,000万円なら8万円が目安になります。ほかに戸籍や証明書の実費が数千円程度、司法書士に頼むなら報酬が加わります。報酬は事務所や案件によって幅があります。
売却前提の人が見落としがちなのが、土地の免税措置です。評価額100万円以下の土地については、2027年3月31日まで相続登記の登録免許税が免税になります。判定は1筆ごとで、土地の合計額が100万円を超えていても各筆が100万円以下なら各筆に適用できます。持分を取得する場合は、不動産全体の価額に持分の割合を掛けた額で判定します。評価額の低い土地をいくつも相続した人ほど、効いてくる場面が増えます。なお課税明細書に価格の記載がない土地(公衆用道路など)は法務局が認定した価格になるため、判定は管轄の法務局に確認してください。
注意したいのは手続きの側です。この免税は申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第2項により非課税」と記載しなければ受けられない、と法務局が明記しています。書き忘れれば通常どおり課税されます。条件と書き方は免税措置の記事で確認できます。
代表的な税の特例は2つ。どちらも早く動いた側に寄っている
売って利益が出れば税金がかかります。相続した不動産では、これを軽くしうる代表的な特例が2つあります。いずれも期限つきで、先に動いた人ほど選べる幅が広い形になっています。
ひとつは取得費加算の特例です。相続税を納めた人が、相続開始から3年10ヶ月以内(相続税の申告期限から3年以内)に売ると、納めた相続税の一部を取得費に加算でき、課税される所得が小さくなります。相続税を納めていない人には関係のない特例なので、まず自分が対象かどうかから確かめることになります。
もうひとつが空き家の3,000万円特別控除です。亡くなった人が住んでいた家を相続して売る場合に、要件を満たせば売却で出た所得から控除できる制度で、昭和56年5月31日以前に建築された家屋などが対象、売却価格1億円以下といった条件があり、適用期限は2027年12月31日です。耐震改修をするか取り壊すかという要件もあります。区分所有のマンションは対象外とされている点にも注意が必要で、マンションの相続についてはマンションの相続登記の記事で制度上の不利をまとめました。
どちらの特例も、要件の当てはめは個別事情で結論が変わる領域です。2つをどう組み合わせられるのか、そもそもどちらが自分に有利なのかも、相続税を納めた額と売却で出る利益によって変わります。適用の可否と組み合わせの判断は税理士や税務署に任せてください。ただ、判断を仰ぐタイミングだけは早いほうがいい。取り壊してから売るのか、建物を残したまま売るのかで結論が変わることがあり、売却活動を始めたあとでは戻れない選択が混ざるからです。控除の中身は空き家の3,000万円控除の記事にあります。
売れない土地、売りたくない土地をどうするか
相続した不動産が全部売れるわけではありません。総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、空き家は900万戸、空き家率13.8%で過去最多になりました。賃貸用や売却用などを除いた空き家も385万戸あります。買い手がつかない不動産は現実にあります。
買い手のつかない土地の出口のひとつが相続土地国庫帰属制度です。審査手数料が1筆14,000円、承認された場合の負担金が原則20万円かかり、建物が建っていると使えません。境界がはっきりしない土地や担保のついた土地も対象外です。使える条件は狭いので、期待する前に要件を読むところからになります。国庫帰属制度の記事で条件を確認できます。田畑や山林には届出の義務が別にあるので、農地・山林の記事もあわせてどうぞ。
売却の話がまとまらず、とりあえず共有名義にしておくという選択もよく出ます。ただ共有のままだと、不動産全体を売るには共有者の足並みをそろえる必要があり、相続が重なるほど関係者が増えていきます。持分だけを動かす方法も含めて、取れる選択肢は共有持分の記事で整理しました。
今日できるところまで
まず、売りたい不動産の登記簿の名義が誰になっているかを確かめる。窓口で600円の登記事項証明書1通で分かります。名義が亡くなった人のままなら、売却の相談より先に相続登記の段取りです。親の不動産が何筆あるのか把握できていない人は、2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度で、全国分を一覧にした証明書を請求できます。名寄帳を市区町村ごとに取って回る必要がなくなりました。手数料はかかりますし、一覧に載ったからといって相続登記が済むわけでもありません。あくまで把握の入口です。使い方は所有不動産記録証明制度の記事にあります。
自分の期限がいつなのか、そもそも義務の対象なのかがはっきりしない人は、相続登記チェッカーで今の状況を確かめてください。相続人の間で分け方が決まらない、亡くなった人の名義がさらに前の世代のままだった、境界や古い抵当権が残っている。こうした引っかかりが出たら、管轄の法務局の手続案内か司法書士に早めに当たったほうが、結局は安く早く済みます。税の特例が使えそうな気配があるなら税理士か税務署へ。どこから手をつければいいか迷う段階なら、無料相談で状況を聞かせてください。