親が生きているうちに実家の名義変更はできる?先に確認すること
更新日 2026-07-29
親が元気なうちに実家の名義を自分へ移しておくべきか、相続まで待つべきか。この問いは、たいてい税金の比較として語られます。ところが実際に手続きへ進もうとすると、多くの人は税より手前の登記でつまずきます。今その家の名義人は誰なのか、その名義をそもそも動かせる状態なのか。ここが片付いていないと、生前に移す道を選んでも相続を待つ道を選んでも先に進めません。税額の比較ではなく、親が生きている間にしかできない確認と手当てを順番に並べます。
生きているうちの名義変更は「贈与」の登記になる
生きている人から不動産の名義を移すとき、登記の原因は相続ではなく贈与(または売買)になります。相続は亡くなったことで権利が移るのに対し、贈与は渡す側と受け取る側の両方が当事者になる契約です。登記の申請も原則として二人で共同して行います。つまり、親が自分の意思をはっきり示せる状態であることが出発点になる。判断能力が落ちてからでは、贈与も遺言も選べなくなっていきます。時間の制約はここにあります。
費用の面はどうか。相続による所有権の移転の登記なら、登録免許税は固定資産税評価額の0.4%と決まっていて、評価額2,000万円なら8万円が目安です。贈与の場合は登録免許税の計算も贈与税の検討も別の話になります。いくらになるのか、そもそも生前に移すのと相続を待つのとでどちらが軽く済むのかは、家族の人数や資産の全体像で答えが入れ替わる領域です。ここは税理士や税務署が判断するところなので、この記事では踏み込みません。代わりに、どちらの道を選んでも必ず通る登記の話を先に片付けます。
まず、その家が本当に親の名義かを確かめる
登記事項証明書を1通取れば分かります。法務局の窓口で600円、オンライン請求ならもう少し安く、しかも誰でも取得できます。親の同意も委任状も要りません。見るのは所有者の欄で、そこに親の名前が入っているかどうか。想像しているより高い確率で、祖父や曾祖父の名前がそのまま残っています。
名義が前の世代のままだった場合、親から子への名義変更に進む前に、その世代からの相続登記を先に済ませる順番になります。贈与の登記は渡す側が登記名義人であることが前提なので、親が名義人になっていない状態では先へ進めません。相続が何代分か重なっている場合の登記の入れ方は事案によって変わるので、管轄の法務局の手続案内か司法書士に確認してください。そしてこの相続登記は、いつかやればいい宿題ではなくなりました。2024年4月1日から相続登記の申請は義務になり、不動産を相続で取得したと知った日から3年以内という期限がついています。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料(行政上の金銭的な制裁で、刑事罰の罰金とは別のもの)の対象です。制度の全体像は相続登記の義務化の記事にまとめました。
祖父名義のまま止まっているなら、その義務を負っているのは多くの場合、親本人です。施行日より前に起きた相続は、2027年3月31日か知った日から3年のどちらか遅いほうが期限になります。この日まで残り233日。親が元気なうちに手を付ければ、遺産分割協議に加わる相続人はまだ少なくて済みます。放っておいて世代が進むほど、話をまとめる相手が増える構図は名義が祖父のままの家の記事で扱いました。期限が集中する事情は過去の相続の記事にあります。
親本人だから使える証明書がある
実家の名義だけを見て安心してしまうと、あとで畑や山林、私道の持分が出てきて手続きをやり直すことになります。2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度は、この抜けを埋めるための仕組みです。登記官が、その人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を一覧にして証明書として出してくれます。市区町村ごとの名寄帳を一つずつ当たっていた作業が、全国分まとめて一度で済むようになりました。
請求できるのは、所有権の登記名義人本人、亡くなった人については相続人その他の一般承継人、そして代理人です。ここが生前と死後で意味が変わるところで、親が元気なうちなら親本人の名前で請求でき、子が代理人として動く場合も委任は本人にしかできません。全国どこの法務局でも書面(郵送でも可)またはオンラインで請求できて、管轄の制限はありません。手数料はかかり、検索の条件によって加算される仕組みなので、正確な額は法務省の所有不動産記録証明制度のページや最寄りの法務局で確かめてください。請求の手順は所有不動産記録証明制度の記事で詳しく扱っています。
気をつけたいのは、この一覧に不動産が載ったからといって名義変更が済むわけではないという点。あくまで持ち物の把握であって、手続きの完了ではありません。ただ、親と一緒に一覧を眺めながら「この土地はどうする」と話せる機会は、元気なうちにしか作れません。
名義を移したあとに始まる義務もある
子の名義に変えたら終わり、とはいきません。2026年4月1日から、住所や氏名を変えたときの変更登記も義務になりました。期限は変更から2年以内で、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料の対象です。すでに済ませていない過去の変更分は2028年3月31日まで。実家を引き継いだあとに自分が引っ越せば、そのたびに義務が発生します。
この義務を先回りして消しておける手続きが、検索用情報の申出です。氏名、氏名の振り仮名、住所、生年月日、メールアドレスの5項目を法務局に届けておくと、法務局が少なくとも2年に1回住基ネットに照会し、変更があった人に確認したうえで職権で無料の変更登記をしてくれます。これがスマート変更登記と呼ばれているもので、申し出ておけば住所が変わるたびに自分で申請しなくても義務違反に問われることがなくなります。押印も電子署名も要らず、多くの場合は身分証明書の写しを添えるだけ。費用もかかりません。
親の名義のまま当面いく、と決めた家庭にとっても、この申出は効きます。2025年4月21日の時点で既に所有権の登記名義人になっている人(国内に住所がある個人)は、登記の申請とは別に単独で申し出ができます。親が施設に移って住所が変わるような場面を考えると、先に申し出ておく価値があります。申出は本人の手続きなので、これも元気なうちの話です。やり方は検索用情報の申出とスマート変更登記の記事に、期限と過料の詳細は住所変更登記の義務化の記事にまとめました。
名義を動かさずに備える道もある
生前の名義変更だけが備えではありません。誰に何を渡すかを決めておきたいだけなら、遺言のほうが身軽なことがあります。自筆証書遺言書保管制度を使えば、法務局が原本を保管し、1件3,900円で、家庭裁判所の検認も要りません。紛失や書き換えの心配が減り、相続が起きたあとの手続きも短くなります。
集めた戸籍を無駄にしない工夫もあります。法定相続情報証明制度で一覧図の認証を受けておけば、その後の手続きは紙1枚で回せて、手数料は無料です。戸籍の広域交付も2024年3月に始まり、直系の戸籍なら最寄りの市区町村の窓口でまとめて請求できるようになりました。兄弟姉妹の分と、コンピュータ化されていない一部の古い戸籍は対象から外れるので、そこだけは本籍地に当たることになります。どの書類がどのケースで要るのかは必要書類のチェックリストで確認できます。
それでも相続の場面で話がまとまらないことはあります。その場合に備えて知っておきたいのが相続人申告登記で、自分がその相続人の一人だと法務局に申し出るだけで登記の義務を果たしたことになり、一人でも申し出ができて登録免許税もかかりません。ただし売却や賃貸には本来の相続登記が要ります。使いどころは相続人申告登記の記事で整理しました。
今日できるところまで
登記事項証明書を1通取り、所有者の欄を見る。ここまでは今週末にもできます。親の名前が入っていれば、生前に移すか相続を待つかという本来の検討に進めます。前の世代の名前が残っていたら、贈与の話はいったん置いて、その相続登記から片付ける順番になります。自分の家がどちらの状態で、期限がいつなのかを整理したい人は、相続登記チェッカーで数問に答えてみてください。税額の比較は税理士や税務署へ、登記の申請書の書き方は管轄の法務局の手続案内か司法書士へ。どこから当たればいいか迷う段階なら、無料相談で状況を聞かせてください。