子どもがいない夫婦の相続。家の名義に兄弟姉妹が並ぶ
更新日 2026-08-28
夫婦二人で長く暮らしてきて、子どもはいない。どちらかが先に亡くなったら、この家は残ったほうのものになる。そう考えている人がほとんどです。ところが名義を変える段になると、亡くなった人の兄弟姉妹や、その人たちが先に亡くなっていれば甥や姪が、書類に署名する立場で現れます。配偶者がひとりで全部を相続すると決まっているわけではないからです。誰が相続人になるのか、家の名義変更に誰の関与が要るのか、生きているうちに何ができるのかを、国税庁と裁判所、法務省の案内に沿って見ていきます。
配偶者は常に相続人。ただし、ひとりだけとは限らない
国税庁は相続人の範囲をこう説明しています。死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になる。第1順位が子で、その子が既に死亡しているときは孫などの直系卑属。第2順位が父母や祖父母などの直系尊属で、第1順位の人がいないときに相続人になる。第3順位が兄弟姉妹で、第1順位の人も第2順位の人もいないときに相続人になります。
子どもがいない夫婦は、この階段を一段下りることになります。亡くなった人の父母や祖父母が存命なら、相続人は配偶者と親。父母も祖父母ももう亡くなっているなら、相続人は配偶者と兄弟姉妹です。そして兄弟姉妹が先に亡くなっているときは、その人の子が相続人になる、と国税庁は書いています。義理の兄が亡くなっていれば、その子である甥や姪が相続人の側に入るということです。
ここで一緒に押さえておきたいのが、内縁関係の人は相続人に含まれない、という一文です。何十年連れ添っていても、婚姻届を出していなければ相続人にはなりません。逆に、長く別居していて実質的な交流が絶えていても、戸籍のうえで配偶者なら相続人です。相続人を決めているのは暮らしの実態ではなく戸籍の記載だ、と考えておくと間違えません。
配偶者4分の3、兄弟姉妹4分の1という割合
法定相続分は組み合わせで決まります。配偶者と子なら、配偶者2分の1と子2分の1。配偶者と直系尊属なら、配偶者3分の2と直系尊属3分の1。配偶者と兄弟姉妹なら、配偶者4分の3と兄弟姉妹4分の1です。子供、直系尊属、兄弟姉妹がそれぞれ2人以上いるときは、原則として均等に分けます。義理のきょうだいが3人いれば、原則としては4分の1をさらに3人で割る形になります。
ただし、この割合で分けなければならないという意味ではありません。国税庁は法定相続分について、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の持分であり、必ずこの相続分で遺産の分割をしなければならないわけではない、と明記しています。相続人全員が納得すれば、家も預金も全部を配偶者が引き継ぐ分け方で構わない。裏を返せば、その分け方をするには全員の同意が要ります。
家が財産の大半を占めているとき、この話は現実味を帯びます。めぼしい財産が住んでいる家しかなければ、割合どおりに分けようとする限り、家を売るか、4分の1にあたるお金を配偶者が用意するかという方向に話が向かいます。実際にどう決着させるかは家族ごとの事情によるので、金額が絡む段階に入ったら司法書士や弁護士に相談してください。
家の名義変更に、義理のきょうだい全員の関与が要る
遺産分割をしていない間、その不動産は全ての相続人が法定相続分の割合で取得した共有の状態になる、というのが法務省の説明です。配偶者ひとりの名義に変える相続登記は、この共有状態を分け方の合意で解いた結果として入れるものなので、遺産分割協議書には相続人全員の署名と実印、そして全員の印鑑証明書が必要になります。義理の兄、義理の姉、会ったことのない甥や姪も、そこに含まれます。
本来の相続登記が重い理由も、法務省が書いています。被相続人の出生から死亡に至るまでの戸除籍謄本等を収集して、法定相続人の範囲と法定相続分の割合を確定する必要があるからです。誰が相続人かが確定しないと、そもそも協議のメンバーが決まりません。必要な書類の全体像は必要書類のチェックリストにケース別でまとめてあります。
連絡先が分からない相続人がいる場合は、話し合いの前段でつまずきます。年賀状のやり取りも途絶えた義理のきょうだい、住所を知らない甥や姪。そういう相手がいるときの進め方は音信不通の相続人がいる場合の記事で扱っています。
戸籍集めがいちばん重くなるのが、この形
相続人に兄弟姉妹が入ると、集める戸籍が一段増えます。亡くなった人の出生から死亡までの戸籍に加えて、父母や祖父母が既に亡くなっていることが分かる戸籍まで必要になるからです。第1順位も第2順位もいないという証明を、戸籍で示す作業になります。法務局も、被相続人の兄弟姉妹が法定相続人となるときなどは、被相続人の親等に係る戸除籍謄本の添付が必要な場合があると案内しています。
ここで効いてくるのが、2024年3月1日から始まった戸籍の広域交付の守備範囲です。本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍証明書や除籍証明書を請求できるようになった制度ですが、請求できるのは本人、配偶者、父母や祖父母などの直系尊属、子や孫などの直系卑属の分だけ。法務省のリーフレットは、きょうだいの戸籍証明書等は請求できないから気をつけてね、とはっきり書いています。窓口に行った本人が顔写真付きの身分証明書を示して請求する必要があり、郵送や代理人による請求もできません。
つまり、子どもがいない夫婦の相続では、いちばん助かるはずの新しい制度がいちばん使えない場面に当たります。きょうだいや甥姪の戸籍は、本籍地の市区町村へ個別に請求することになる。法務省は通常の請求について、自己の権利の行使又は義務の履行のために必要な方の例として、亡くなった兄弟姉妹の相続人となった方が兄弟姉妹の戸籍謄本を請求する場合を挙げています。請求書に理由を書く欄があり、記載から請求の理由が明らかでない場合には、必要な説明や追加の資料を求められることがあります。
集め終えたら、法定相続情報一覧図を作っておくと後がだいぶ楽になります。登記官が戸籍の束と照らして確認したうえで、認証文を付した写しを無料で交付する制度で、様式と記載例には配偶者及び兄弟姉妹のパターンや代襲相続のパターンも用意されています。銀行や年金の手続きでも束の代わりに使えるので、窓口の数だけ戸籍を持ち回る必要がなくなります。使い方は法定相続情報一覧図の記事にまとめました。
話がまとまらないうちに、3年の期限が来る
相続登記は義務です。不動産を相続で取得したと知った日から3年以内に申請しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。2024年4月1日より前に起きた相続も対象で、その場合の期限は2027年3月31日か知った日から3年の遅い方。過去分の期限までは残り206日です。制度の全体像は相続登記の義務化の記事に、過去の相続の扱いは2027年3月31日が期限になる人の記事にあります。
やっかいなのは、相続人が多いほど話し合いに時間がかかるのに、期限のほうは待ってくれないことです。義理のきょうだいとの連絡、甥や姪の住所調べ、戸籍の取り寄せ。どれも数か月単位で動きます。
間に合いそうにないときの応急処置が相続人申告登記です。自分が相続人の一人だと法務局に申し出るだけで、申し出た人については登記の義務を履行したものとみなされます。相続人の1人で申出ができ、登録免許税もかかりません。ただし権利関係を公示するものではないため、家を売ったり抵当権を設定したりするには別途、本来の相続登記が必要になります。義務を果たしたとみなされるのも申出をした人だけです。限界も含めて相続人申告登記の記事で確認してください。
遺言があると、この構図が変わる
ここまでは遺言がない場合の話です。遺言があれば、家を配偶者に残すという被相続人の意思が先に立ちます。そして子どもがいない夫婦にとって決定的なのが、兄弟姉妹には遺留分がないという点です。
遺留分について、裁判所は、一定の相続人について被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分で、生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものだと説明しています。侵害された人は、贈与や遺贈を受けた者に対して侵害額に相当する金銭の支払を請求できます。その遺留分侵害額の請求調停の申立人として裁判所が挙げているのが、遺留分を侵害された者、つまり兄弟姉妹以外の相続人です。兄弟姉妹はここに入りません。
だから、相続人が配偶者と兄弟姉妹という組み合わせになる夫婦では、全ての財産を配偶者に相続させるという遺言が実際に効きます。ただし、兄弟姉妹が先に亡くなっていて甥や姪が相続人になる場合にどう扱われるかは、裁判所のこの案内からは読み取れません。その形に当てはまりそうなら、遺言を用意する前に司法書士や弁護士に確認してください。一方で、父母や祖父母が存命なら話は変わります。直系尊属は兄弟姉妹以外の相続人にあたるので、遺留分を請求できる立場です。自分たちがどちらの形なのかは、父母や祖父母といった直系尊属が存命かどうかで決まります。
自分で書く遺言を法務局に預ける制度もあります。手数料は遺言書1通につき3,900円の収入印紙で、家庭裁判所の検認が不要になり、原本を保管所が預かるので紛失や書き換えの心配もなくなります。ただし本人が予約を取って出向く必要があり、代理人による申請や郵送による申請はできません。用紙はA4で片面のみ、余白を確保する、ホチキス等で綴じないといった様式の決まりも細かい。法務局が見るのは形式が整っているかという外形的なチェックだけで、法務省も、本制度は保管された遺言書の有効性を保証するものではありませんと明記しています。手順は遺言書保管制度の記事にまとめました。内容そのものをどう書くかは、司法書士や弁護士に相談してください。
夫婦のどちらが先になるか分からない以上、遺言は二人ぶん用意しておくと備えとして噛み合います。名義を生前に動かす方法もありますが、贈与税や登録免許税の扱いが相続とは変わるので、生前の名義変更の記事を見たうえで税理士に確認するのが安全です。
今週のうちに確かめられること
まず、家の登記名義が今どうなっているかです。夫婦の共有なのか、どちらか一方の単独名義なのか。登記事項証明書を1通取れば分かります。次に、名義人の父母、父母が亡くなっていれば祖父母が存命かどうか。ここで第2順位に当たるか第3順位に当たるかが決まります。最後に、名義人のきょうだいが何人いて、既に亡くなっている人に子がいるか。この三つが分かれば、自分たちの相続人の顔ぶれはおおよそ見えます。
親から引き継いだ家の名義がまだ前の世代のままだった、というケースもよくあります。その場合は今回の相続の前にもう一段の登記が残っているので、相続登記の期限チェッカーで対象と期限を確かめてください。義理のきょうだいの人数や連絡先が分からない、両親の戸籍がどこにあるか見当がつかないという段階なら、無料相談で家の場所と名義の状況を聞かせてください。戸籍の取り寄せから始めるか、先に遺言を用意するかで、動く順番が変わります。